2000/10/23

土蔵の改修

 5月、本社の隣に住んでいらっしゃる加藤さんから土蔵の改修を依頼されました。土蔵の改修なんてめったに目にする機会なんてありませんよね。私もはじめて見ました。職人さんたちに尋ねても「ほんと、珍しいねえ。」と口を揃えて言っているくらいです。そこで土蔵を知るにはいい機会だと思いましたので、改修工事の写真とともに土蔵のあれこれをご紹介します。

土 蔵

 

 土蔵は主として防火対策上、外面を厚い土蔵とした蔵です。通常は木材で架構を造り、壁土を塗ったものです。柱を1m間隔に立て、その外周に丸竹と棕梠縄(しゅろなわ)などで下地を造り、壁土を10数回も塗って12〜30cmの厚さとし、その上を漆喰などで仕上げます。壁の上部に鉢巻、下部に腰巻と呼ぶ部分を付けます。屋根材は瓦が多いようです。窓や入口(戸前)はとくに注意が払われ、火災時には土扉を閉め、さらに土で目塗りをしたそうです。その他板倉の外面に、竹釘などで縄を吊るし、壁土を塗り上げて造る場合もあるそうです。
 土蔵には、米やもみなど穀物、書類や什器・貴重品を収蔵するもの、酒など醸造に使う生産用のもの、他に居住用の蔵座敷などがあります。
 土蔵の工法は土蔵造りとして近世から明治時代まで、優れた工法として倉庫以外にも採用されていたようですが、土蔵が数多く造られたのは大正初期までで、地震後の火災に弱いこともあって鉄筋コンクリート倉庫に変わり、土蔵の数も減ってきました。
 現在残っている土蔵では、16から17世紀のものが最も古いとみられ、18から19世紀のものは多く残っているそうです。

単語解説
棕梠縄 棕梠は九州原産といわれる、暖地海岸性常緑高木で庇陰にも耐え、強健。棕梠縄は棕梠の毛を織って作られた縄で耐久性に富む。細毛のものは垣根などに結束用として用いられる。余談ですが、「棕梠伏せ」は左官工事で亀裂防止の為に棕梠の繊維をほぐしたものを塗り込むこと。
漆喰 消石灰に砂、糊、?(すさ)などを混ぜて水で練ったもの。
鉢巻 土蔵造りにおいて防火のため粘土と漆喰で厚く塗りこめている軒裏部分。
腰巻 関東の土蔵または店蔵において、外壁の裾周りの石垣を漆喰で厚く塗り込めた部分。
板倉 ―壁体を板とする倉の総称。土で外壁を塗り込める土蔵、外壁を切石積みとする石倉に対する後。奄美大島の高倉、八丈島の脚上げ倉、福島県檜易の板倉などのように柱間に羽目板を落とし込む構造のものと、正倉院宝庫、千曲川上流地方の井楼(せいろう)蔵のように、丸太、三角材、厚板などを井桁に組み合わせた構造のものとがある。



土蔵の構造

 


 土蔵の構造土蔵の計画では、梁間・桁行・軒高と屋根の形式と葺材とを定め、戸前には庇を付けます。まず基礎を築き土台を回し、柱を通常は1m間隔に通し柱として立てます。棟の下には地棟と言って、長大な材を妻から反対の妻側まで渡し、妻柱に架けます。その際古くは妻側柱列の中心柱で支えましたが、後には妻柱列の上に梁をかけ、梁で支えるようになったそうです。桁行が5間(10m)以上の場合は、地棟を繋ぐため倉内に中柱を立てます。また蔵では小屋裏の空間を上手に使うため、梁行方向には邪魔になる梁を使わないようにしたそうです。多くは側柱から地棟に登り合掌を架け、その上に母屋や垂木を渡し屋根板を張ったそうです。側柱と地棟や合掌との仕口は古くは折置き組み(おりおきくみ)が多く、京呂組み(きょうろくみ)は近世後期以降に増えてきたそうです。小型の土蔵では太い垂木を直接、棟木と側桁とに架け、母屋を使わない場合もあるようです。2階の床は側柱の間を大引きで繋いで床板を張ります。
土蔵の構造 屋根は現在桟瓦を使うようですが、以前は本瓦も使われたそうです。板や草葺のときは、蔵の本体の上に、置き屋根を乗せました。その際土塗屋根の上に石を置き、縁を切った上に屋根架構を乗せてあります。また屋根束を塗り込めることもあったそうです。屋根の形は切妻が多いですが、寄棟もありました。上棟後、野地・土居葺をし、左官工事にかかり、外壁は荒打から大直し、小直し、砂ずり縄隠し、樽巻、中塗、仕上げなど多くの行程がありました。丁寧な仕事では数ヵ年を要したそうです。

 

単語解説
地棟 棟木のすぐ直下に棟木と平行に置かれている梁。土蔵や瓦葺民家の屋根裏において、頭のつかえる小屋梁を省略するために設けられる。すなわち軒桁または木柱上端から登り梁を立ち上げ、この地棟に架け、登り梁には束(つか)を立て、母屋桁を受ける。棟木は地棟より立つ束によって支えられ、地棟は柱によって直接支えられるが、2本の柱で支えられる天秤梁で受けられる。近世の民家や倉などに多く使われた。
折置き組み 小屋梁の端部と柱の納め方の一つ。側柱の頂部に直接小屋梁を架け、その上に軒桁を架けるもの。柱の重?(じゅうほぞ)で梁と桁を貫き3材を固定する。側柱が等間隔に建つ建物に向いており、古代から行われた。
京呂組み 小屋梁の端部の納め方の一つ。側柱の上に桁を載せこの桁の上に渡り腮(あご)または蟻(あり)掛けで小屋梁を載せるものをいう。側柱の柱間が不均等でも、それとはかかわりなしに小屋梁が掛けられる利点がある。近世になってはじめて考案された。京呂は桁露(きょうろ)で、軒桁が露出しているという意という。
桟瓦 桟瓦葺きに用いる断面が波形の瓦。土居葺き(瓦葺きの下地となるもの)の上に瓦桟を葺き足間隔で打ち付け、軒先から葺き上げていく。
本瓦 ―下葺き、土留め桟、葺き上げなどで葺き下地を作成した後、平瓦、丸瓦を交互に用いて葺いた屋根。古来からのものである。凍害などは受けやすいが断熱性がよいとされている。
砂ずり 漆喰や壁土に砂を入れたもので薄く塗ること。
縄隠し 土蔵壁で、巻き込んだ縄の上に壁土を塗ること。


土蔵の機能

 


 倉庫内の室内気候は、厚い土壁によって外部の変化に対して、ほぼ一定の温湿度が保てる特性を有しています。土蔵では周囲の環境による急激な変化が抑えられ、またその変化に要する時間が長くなります。こうした機能を高めるためには、建築自体の断熱性能を高め、室内をできるだけ密閉して外気の侵入を防ぐよう、吸放湿気量の多い、内装材を使い調湿作用が十分に行われるようにします。また置き屋根、厚い土壁、開口部を小さくする、内部は壁面を板の落とし込みにすることなども有効です。防火のためには、本体の壁を厚くするだけでなく、内部に火が入らないように、危険の多い軒先には鉢巻をつけ、土厚を厚くし、屋根の垂木を土で被覆し、また開口部周りを厳重に造ったそうです。またいったん火災の時は、戸前に常に用意してある泥土で隙間をふさぎ、外壁の下見板や置き屋根を外すことも行われたそうです。盗難防止には、鍵の管理、戸前への監視ができるようにし、また蔵の内側に破りにくい厚板を使い、金属の格子を付ける、壁の中に砂や砂利の層を造り、たやすく道具が使えなくするなどの工夫が見られます。
 これに関連したエピソードを加藤さんからお聞きしたのですが、加藤さん宅の土蔵の屋根は置き屋根にしてあり、その理由を聞くと、台風のときに屋根だけが飛ばされて土蔵が壊されないようにするためだそうです。実際の話ですが、数十年前の台風のときに土蔵の屋根だけが50mほど飛ばされてしまい、これまた面白い話で、飛ばされた屋根はさいわい無傷で、そのまま運んで土蔵に乗せたそうです。


改修工事の写真




改修工事写真
改修工事写真
改修工事写真
改修前の土蔵です。 屋根を取り壊し、土蔵の上に直接太い垂木と母屋を組んでいるところです。屋根は土蔵の上にただ乗せてあるだけです。 漆喰を落としたところです。
     
改修工事写真
改修工事写真
改修工事写真
水でほこりなどを取っているところです。 屋根は銅板葺です。葺いたばかりのときはまぶしいくらいに光っていますが、2〜3年経つと黒々としたしぶい色になります。 半分をモルタルで塗る際、下地が土壁でラス下を張ることができないため鉄筋を組んだものを張り、その上にラス網を張っているところです。
     
改修工事写真
改修工事写真
改修工事写真
下半分にモルタルを塗っているところです。 上半分に泥と砂とわらすさとを混ぜたものを塗っているところです。 だんだんかたちになってきました。仕上げは下半分が砂の洗い出し、上半分が漆喰塗りの予定です。完成予定は秋口です。
     
ついに完成しました!


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